心の中は闇のように
どうして闇のように出来ているのだろう
だから闇の中を探して
こころの旅をしてみよう

こころの旅
雀が今でも軒先に
電信柱にせわしなく
ツイばんでいたんだ
そこに居て可哀そうというまでもなく
人の社会に居てさ程重たい気もせず
柔らかい日差しが
ゆったりとした空気が身をまとっている

約束
電車に乗るために急ぐ
約束の時間に間に合わせるために急ぐ
大事な約束だからいつもより緊張して

道の真ん中にあのこげ茶の猫が
約束しただろうか
今日は約束しただろうか
いやそのはずがない偶然いただけだ

同じ時間を共有している
もし約束をしたなら守れるか
いや約束は出来るのか

同じ長さの流れた時間が去る
時の支配者

夜だけは自分の時間だ
誰しもがそう思ったときがあるに違いない
どんなに小さな部屋に居ても
どんなに辺ぴな所に居ても
世界を全て自分のものにしたって思った時間が

夜のとばりが降りるころ
丘の上から見た空が赤から紫へと変わる
どこからかポツリポツリと家の灯りがともり始め
息をするたびにひとつふたつと増ええてゆく
足元がすっかり暗くなるとプラネタリウムの始まりだ
ひとつひとつの灯りがそれぞれの惑星
そしてそれぞれの家族が住んでいる
今日見た星雲は銀河系か
それとも他のものか
明日はどこが見えるだろう

白い光
木漏れ日がキラキラと部屋に差込み机の上を舞う

見えないもがあるとしたら
カーテンで閉ざされた外の世界

見えないもがあるとしたら
白い光の正体

見えないもがあるとしたら
FMから流れてくる軽快な音楽

見えないもがあるとしたら
送信後のメールの行方

見えないもがあるとしたら
紙の表と裏の間

見えないもがあるとしたら
明日の自分

カラスが飛んでくる
野を越え山越え谷越えて

エサの無くなった山から来たんだな
俺もお前も生きているんだな

朝となく夕となく青いポリバケツの残飯あさって

そうさこの地球上の生き物はみなお前らと俺らの分身なのさ

夕刻の寂しさ、田舎のそれは自然に対して、都会のそれは人に対して
高層ビルと繁華街の狭間を歩いている
もうそこには自分はいない
それは突如としてやって来る

自分の体という実感はなく視覚だけがギョロギョロして
まるで電源の入ったビデオカメラ

マッチ箱にキチンと納まっている人間社会
外敵のないこの時間と空間

なめらかに流れ行く人々の足並みと車...

街頭に流れるどこかの店の宣伝は人々を誘う

決められた調和の流れはどこから学んだか
規則正しいこれらの歩調は何から来ているのか

誰も知るはずがない
そう思って我に帰る
甘い香り

霧雨の後の昼下がり
かすかに香る甘い香りは
隣人の庭に咲く梅の花
ざわざわとした季節がやって来る
そろそろだな
緑のユニフォームを来た小鳥のチームが遠征してくるのは

ゆとり
急行列車の軌道を
がむしゃらに走り続けて来た
心のポイントを切り替えてみようか

磯の香りがしてくるかも
草のにおいがしてくるかも
ドアが開くと風と共に粉雪が足元に降りかかって
分厚い作業着を着た酒臭い親父の肩が触れて
学生らの笑い声が
おばさん達の甲高い声が
聞こえてくるかもしれない

そうだ次の駅で鈍行に乗り換えてみよう

十円玉の行方
券売機の前に恰幅の良い中年の男が立っていた
その男は切符を買うために財布から小銭を取り出した
すると十円玉が一枚手からするりと床に転がり落ちてしまった
コロコロ転がって男はその行方を見失ってしまった

十円玉は思った
開放されたんだ
自由だ

赤十字の募金箱を持っている女子学生の前に転がろうか
自販機の下に潜り込もうか
子供が探してくれるだろうか
浮浪者の前に転がるのはどうだ

すると白髪交じりの初老の女性がその十円玉を拾った
「落ちましたよ」と言って男に手渡した

男は照れくさそうに礼を言うと十円玉を元の財布にしまった

十円玉はその男の勝手にまた翻弄されることとなった

無機物
そいつはそこに居る
香りが漂ってくるのではない
しかし脳の髄まで感じる

そいつは鉄
冷たいヤツ
一端熱くなるとやけどする

そいつは硝子
煮ても焼いても食えない
ぶった叩くとすぐ壊れる

そいつは火薬
細かい野郎
だが一度火が付くと誰にも手に負えない

そいつは無機物

青き空
高く高く澄み切った空
冬の殺風景の中の青い空
青は地球の色海の色
澄み切った深い青が気持ちを暖たかくする
いつからだろう都会の空がこんなに青くなったのは
もうすぐ立春
しばしのお別れか

道に迷った登山家
険しくそびえたった山
その頂はいつも雲に覆われていてその姿は誰も知らない
細く急な坂道が続いているだけ

その先には大きな岩と岩とが横たわりその隙間から風が吹いている
蛇の道か

その脇には草と草の間を拭って谷底に向かう道
獣道か

後に戻れば「々」の字の世界が待っている

「を」の字の世界に行くすべはあるのか

その山は決して語らない

存在あるもの
地球上には何でもある
自然が創ったもの
生き物のすべて
人間が造ったもの
たくさんたくさんある

自然が創り出すものは
朝日、夕陽、山、川、雲、霧、雪景色、波しぶき
数え切れない

生き物が残すモノは
蝉の抜け殻、カブトムシの角、貝殻、亀の甲羅
それから恐竜の化石

人間が残せる物は
ビン、缶から、ペットボトル、プラスティック
思い出せない

あとはお墓だろうか

風のささやき
陽の光りが増す
風がさわさわと吹くと
光りを風が追いかけはじめる

風が光りを追い越したら
あいつらが戻ってくる

木と木の隙間から
乾いた地面の中から
枯れ葉の下から

みんなの吐息が聞こえる

早春
雑木林の地面に差し込む
木漏れ日
傘になる葉もなく
木々の合間から覗く青空

枝と枝とを結ぶ蜘蛛の巣が
主はどこにいるのか
幹の皮の下に隠れているのか
スズメバチに襲われたか

糸がキラキラとそよ風に
太鼓のように揺らめいた

一句
春霞
ふたつの華粉に
目が細む

失くし物
失ってしまった
滑り台を滑ったとき
失ってしまった
横断歩道を渡っているとき
失ってしまった
公園のベンチで座っているとき

交番に落し物届けを出しに行った
遺失物保管所には無かった
係りの人が言った
「また買われたらいかがですか」

一体いくらするのか
値段はあるのか
貯めることはできるのか
借りることはできるのか

実像のないもの
時間
速さの変わるもの
時間

そう最初からそんなものは持っていなかったんだ
それは通り過ぎるだけ
感じる記憶と引き換えに


伝えること
朝日が昇ると聞こえてくる鳥のさえずり
「おはよう」「おはよう」
夕方大きな木の上でたくさんの鳥の泣き声
今日一日の出来事を伝え合っているのだろうか

夏の夜空に舞う緑のホタル
秋の縁側で鳴く鈴虫
咲き誇る花の甘い香り

いつも気になるのは
今日の天気、経済の動向、流行の広告、変わった事件

埋もれてしまう
見逃してしまう
気が付かない
分からない
たくさんのどこにでもありそうなそのメッセージが

分かるのは人のものだけ

転がる苔石
誰が去ったのか
お前が去ったのか
水が石の上へ下へとさらさら流れる
苔の生えた石がひとつ転がり始めた
お前も行ってしまうか
水が濁る
そしてまたひとつ苔石が転がる
次から次へと
そんなに去ってしまったらあの大きな岩まで
崩れ落ちてしまうだろう

あの角の向こう
あの道の角を曲がったら
いつも通り過ぎてしまう
恐れることはない
小さな体だったら何度も行けた

あの景色を思い出して曲がってみる
水がかかるほど顔を近づけて
何がいるかと思って覗き込んだのは...

高い所からの目線は何も探せなかった
あぜ道の小川はコンクリート壁

境界
海と陸との境に海岸が見えた
海の上には境界は見えない

山の道の向こうには境界線があるはずだ
長く遠くまでも続く歴史上の国境壁のようではない
ボンヤリとしたその接点で美しい自然の景色と希少な生き物に出会える
行きつ戻りつする彼らとの共存線

その境を侵したら海は膨れ
山はせせら笑った
ODN社の旧「まいぺーじ」に掲載したものからの
引用です。
以前ご覧になられたお方、ありがとうございました。
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